ヒートショック

本格的に寒さが厳しくなるこの季節、注意したいのが「ヒートショック」です。
ヒートショックとは、寒暖差によって急激な血圧変動や心拍数の変化が生じ、心筋梗塞や脳卒中、さらには意識喪失による溺水や転倒事故などを引き起こす現象のことで、近年の統計では、ヒートショックによる死亡者数は交通事故死を大きく上回ると報告されています。
ヒートショックは高齢者や循環器疾患を抱える方に特にリスクが高いとされますが、若い方にも起こる可能性があり、働き盛りの世代も決して油断はできません。
ヒートショックの原因と症状
原因は、急激な温度差による血圧の乱高下です。短時間で血圧が急激に上下すると、心臓や脳の血管に強いストレスがかかり、下表のような症状を引き起こします。
| 血圧 | 原因 | 症状 |
|---|---|---|
| 急上昇 | 暖かい場所から寒い場所へ移動すると、体は寒さに対応するため血管を収縮させ、血圧が急上昇 | 心筋梗塞や脳卒中などを誘発する可能性 |
| 急低下 | 体が冷えた状態で熱い湯に入るなど体が一気に温まると、血管が急激に拡張し、血圧が急低下 | 立ちくらみや意識喪失を起こし、転倒による怪我や入浴中であれば溺水の危険 |
ヒートショックのリスクが高いのは?
◆リスクが高い人
- 高齢者(最も多い)
- 年齢に関わらず循環器疾患のリスクが高い人(肥満、高血圧、脂質異常症、糖代謝異常、喫煙)
- 飲酒後の入浴、過労や睡眠不足の状態
◆リスクが高い場所
「10℃以上の温度差がある場所」が特に危険です。
- 最も生じやすい場面はやはり「入浴」時
・温かい部屋から寒い脱衣所
・浴室 →大きな温度変化にさらされるため
・熱い湯船へと移動 - 暖房の効かないトイレや廊下
- 住宅の断熱性が低い環境(室内の寒暖差が大きくなるため)
WHO(世界保健機関)は「寒い時期の室温は18℃以上が必要」と勧告しています。
慶應義塾大学の伊香賀俊治教授らの研究によると、冬の居間の平均室温は北海道で19.8℃、東京都で17.1℃、温暖な香川県では13.1℃と報告されており、寒冷地よりも温暖地域の方が室温が低い傾向にあることが分かっています。このため、温暖な地域に住む人も室温管理には十分な注意が必要です。
ヒートショックの予防のために

ヒートショックの予防には、寒暖差の影響を減らすことが重要です。
2つの予防策
1. 室内環境の工夫や衣類の調整
浴室や洗面所、トイレ、寝室など、暖房の効いた部屋との温度差が10℃以上ある場合は、小型暖房器具を利用して温度差を減らしましょう。
断熱性の低い住宅では、WHOが推奨する「室温18℃以上」を目安に家全体の温度を維持することが望まれます。外出時も寒暖差による血圧変動が循環器系に負担をかけるため、防寒具を活用して体温を保ちましょう。
2. 入浴時の予防策
入浴はヒートショックのリスクが最も高い場面です。以下の点に注意してください。
- お酒を多く飲んだ場合や、強い疲労・睡眠不足など体調がすぐれない時は、入浴を避け、シャワーのみにする
- 脱水状態はヒートショックが起こりやすいため、入浴前に水分摂取をする
- 脱衣所や浴室は暖房器具で事前に温め、リビングとの温度差をなくす
- 脱衣所では、素足で触れる床にはマットを敷く
- 浴室は湯船のふたを開けておく、シャワーで床に湯をかけるなどして温める
- 入浴時は手足など体の末端からかけ湯をして徐々に体を慣らす
- 長時間の入浴は低血圧による意識喪失の危険があるため注意する
- 湯温は40~38℃程度が目安
(42℃以上で心臓に負担をかけ41℃以上で浴室での事故が増えるとの報告がある)
ヒートショックは、寒暖差が大きくなる冬季では誰にでも起こり得る危険な現象です。しかし、室温管理や入浴習慣の工夫といった小さな予防策を積み重ねることで、そのリスクは大幅に減らすことができます。今日からできる対策をぜひ取り入れてみてください。
株式会社メディエイト 保健師 小河原 明子

