産業医を選任する義務のある企業の基準とは

ある基準を超える企業には産業医の選任が必要になります。これは労働者保護が主な目的です。具体的にどのような企業で選任の義務が生まれてくるのか見ていきましょう。

 

1. 産業医選任義務の基準

企業の規模が一定以上になってくると、「産業医」の選任について考えなくてはなりません。産業医とは、労働者の健康管理等について指導や助言を行う医師のことで、労働安全衛生法によってその選任基準が定められています。基本的に労働者数に応じて産業医の選任義務の有無、産業医の形態や人数が変わってきます。

 

労働者数が50人以上の事業場なら産業医の選任が必要です。ここで注意すべきことは、事業場の意味と産業医の形態についてです。事業場とは企業単位ではなく、現実に働いている職場のようなイメージとなります。例えば企業全体で50人の労働者数が存在しても、本店と支店にそれぞれ労働者が30人、20人と分かれれば、事業場単位で見たときには50人未満となり産業医の選任は必要ないということになります。

 

しかし、単に場所が離れているというだけでは異なる事業場として扱われない可能性があります。産業医選任の観点から各職場を事業場と認めるには独立性が必要になります。管理的機能、例えば人事の管理を行うような機能を持つ支店でなければ別の事業場として扱われず、事業場としては本店に帰属することになります。逆に、独立性が認められれば同一の場所であっても異なる事業場として扱われるケースもあります。著しく労働の態様が異なる部門があり、労働安全衛生法の適切な適用のため別個の事業場と考える方が望ましい場合、場所に関係なく異なる事業場として扱われることになります。

 

もう一点注意すべきことは産業医の形態についてです。基本的に事業場単位の労働者数で産業医の人数が決まりますが、一部の事業内容を行う場合、異なる基準が設けられています。

 

「専属産業医」と呼ばれる常勤の産業医は、通常1000人以上の労働者を抱える事業場で必要となりますが、有害な物質を扱い、より厳重な健康管理が必要な職場では500人以上から選任が求められます。もう一つの形態には「嘱託産業医」があります。こちらは専属産業医と異なり非常勤でかまいません。比較的規模の小さな事業場では嘱託産業医の選任で足ります。

 

以下、産業医の選任義務や必要な人数等をまとめます。

 

・50人~999人  :嘱託産業医1人(事業内容に応じ、500人以上で専属産業医が必置)

・1000人~3000人:専属産業医1人

・3001人~    :専属産業医2人

 

2. 義務があるにも関わらず産業医を選任しない場合の罰則について

産業医の選任は法律に定められている義務です。選任が必要であるにもかかわらずこれを怠れば50万円以下の罰金に処されます。

 

労働安全衛生法では第120条にこの罰則規定があり、同条ではこの罰則規定に該当するケースが列挙されています。産業医の選任義務違反以外に関連するものとして、健康診断の実施違反や健康診断結果の通知の未記録、さらに健康診断結果の未通知なども含まれています。

 

そもそも企業活動を行うにあたり労働者を雇う場合、労働者の安全確保のために必要な配慮をしなければなりません。これは労働契約法で明記されています。産業医の選任等はこれを具体的に実施するための規定と言え、企業の責任者としては当然に守らなければならない義務なのです。

 

3. 産業医を選任しない場合の法律以外のリスク

産業医の業務は幅広く、その需要も高まりつつあります。現在のところ産業医の行う主な業務内容は健康診断に関わるものが多いですが、この他メンタルヘルスに関する相談や、健康管理計画の企画・立案の指導助言なども行われます。産業医をうまく活用することで企業にも様々なメリットが期待できます。

 

しかし、選任義務があるにも関わらず産業医が配置されていない事業場も存在します。この場合、罰金に処されること以外にも様々なリスクを負うことになります。労働者の過労死などが社会問題となっている現代では、これを防ぐため労働者の自己管理のみならず企業側の歩み寄りも必要になります。

 

健康的な職場環境の構築をしていかなければなりませんが、専門的な知見を有する産業医を選任していれば、そのためのアドバイスを受けられます。また、労働者にとって、上司や経営者等より産業医のほうが相談をしやすい場合があります。労働者との面談、そしてこれを受けて企業に対し必要な措置の勧告指導なども行えます。このように間に立つ者がいることで問題を明らかにでき、企業全体をよりよい方向へ向かわせることができます。

 

4. まとめ

産業医は50人以上の事業場で選任の必要が出てきます。選任を怠れば50万円以下の罰金に処されるだけでなく、労働者の適切な健康管理ができなくなるリスクも高まります。

 

各事業場には専属産業医と嘱託産業医のどちらが必要なのか、そして何名選任する必要があるのか考えてみましょう。そのためには特に各支店や工場等が、産業医選任の観点から事業場として扱うことができるのかどうか、注意が必要になります。