職場での熱中症対策
近年、気候変動により夏季の暑さは年々厳しさを増しており、熱中症による労働災害は災害死亡も含め年々増加傾向にあります。
このような状況を踏まえ、職場における熱中症対策を強化するために、令和7年6月1日から労働安全衛生規則が改正され、熱中症への対策が罰則付きで義務化されることとなりました。
今回は労働安全衛生規則改正のポイントを中心に、職場における熱中症対策についてお伝えします。
熱中症とは
高温多湿な環境下で、体内の水分と塩分(ナトリウムなど)のバランスが崩れたり、体内の調整機能が破綻するなどして発症します。
熱中症の主な症状は、めまい、たちくらみ、気分の不快感、手足のしびれ、筋肉のこむら返り、筋肉痛、多量の発汗、頭痛、吐気・嘔吐、倦怠感、虚脱感、痙攣、意識障害、高体温等で、最悪の場合死に至る危険性があります。
労働安全規則改正の背景
昨年の熱中症による「死亡者及び休業4日以上の業務上疾病者の数(死傷者数)」は1,195人、内死亡者数は30人に上り、死傷者数は2年連続で1,000件を超え、死亡者数は3年連続で30人以上となっています。
- 熱中症により死亡災害に至るリスクは他の労働災害の5〜6倍にとなっており、十分な対策が必要な状況
- 昨年の死亡災害全30件のうち21件は「初期症状の放置による発見の遅れ」や医療機関への搬送などの対応の遅れといった「異常時の対応の不備」が主な原因と判明
- 死亡者の約7割は「屋外作業」での発症であり、今後の気候変動により今後さらなる労災事故の増加が懸念されている
このような状況を受け、「死亡に至らせない(重篤化させない)」ために、事業者に熱中症初期症状の早期発見や迅速な対応、医療機関への搬送といった適切な措置を講じることが義務化となります。
事業者がこの対策を怠った場合、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
改正の内容 ①義務化される対応
基本的な考え方は「見つける」→「判断する」→「対処する」
熱中症の恐れがある労働者を早期に見つけ、その状況に応じ迅速かつ適切に対処することにより、熱中症の重症化を防止するため、以下の「報告体制整備」「手順作成」「関係者への周知」が事業者に義務付けられます。
(1)「熱中症の自覚症状がある作業者」や「熱中症の恐れがある作業者)を見つけた者」が、その旨を「報告するための体制を整備」し、関係作業者への周知を行う
→ 報告を受けるだけでなく、職場巡視やバディ制の採用、ウェアラブルデバイス等の活用や双方向での定期連絡などにより、熱中症のある作業者を積極的に把握する
(2) 熱中症の恐れがある労働者を把握した場合に迅速かつ的確な判断が可能となるよう、以下を作成し、関係作業者へ周知する
①事業場における緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先及び所在地等
②作業離脱、身体冷却、医療機関への搬送等熱中症による重篤化を防止するために必要な措置の実施手順
【周知の方法】
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- 朝礼やミーティングの機会の利用
- 食堂や休憩所などのわかりやすい場所への掲示
- メールやイントラネットでの通知の活用など
改正の内容 ②対策が義務付けされる作業
夏季に屋外で作業する等、熱中症を生ずるおそれのある作業である「WBGT※28度以上又は気温31度以上の環境下で連続1時間以上又は1日4時間を超えての実施」が見込まれる作業を対象としています。
※WBGT(暑さ指数)
気温に加え、湿度、風速、輻射(放射)熱を考慮した暑熱環境によるストレスの評価を行う暑さの指数。詳しくは以下厚生労働省サイトをご参照ください。
◇暑さ指数について|職場における熱中症予防情報 https://neccyusho.mhlw.go.jp/heat_index/
厚生労働省発信の情報を活用し熱中症対策を進めましょう
厚生労働省では、職場における熱中症の予防対策を徹底するため、5月から9月までの間「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を実施しています。
この中で、熱中症に関する資料やオンライン講習動画等を掲載しているポータルサイトを運営しています。こちらのポータルサイトに大変詳しく熱中症対策がまとめられていますので、参考にしながら熱中症対策を進めて頂くと良いでしょう。
◇ポータルサイト「学ぼう!備えよう!職場の仲間を守ろう!職場における熱中症予防情報」
https://neccyusho.mhlw.go.jp/
高血圧や糖尿病などの基礎疾患をお持ちの方は、義務化された作業でなくても熱中症のリスクが高い可能性があったり、睡眠不足、体調不良、その日の作業強度や勤務環境等で熱中症発症リスクが高まるケースも考えられます。このため、今回の義務化対象外の事業所であっても、クールワークキャンペーンの情報や上記ポータルサイトの情報・資料を活用し、熱中症予防の体制整備を進めていきましょう。
株式会社メディエイト 保健師 小河原 明子