産業医による職場巡視の重要性を解説!職場環境改善に与える影響とは
産業医の業務のひとつに「職場巡視」という業務があります。産業医が実際に職場内を巡視するという内容ですが、巡視は大きな意義と重要性を持ち、職場環境を改善していくためには欠かせない業務です。
そこで今回の記事では、職場を巡視することの目的や重要性、実際の巡視の進め方、巡視の頻度について解説していきます。
産業医の職場巡視とは?
産業医の業務である「職場巡視」の目的や重要性についてご紹介します。
産業医が行う職場巡視の目的とは
産業医が行う職場巡視には、主に次のような4つの目的があります。
・作業現場を巡視し問題点を見つけること
・作業環境における健康・安全上の課題を改善すること
・従業員や職場に対する理解を深めること
・職場の管理監督者・衛生管理者とのコミュニケーションを図ること
主な目的としては、職場の環境を見ることにより問題点を発見し改善していくことです。巡視によって実際の労働環境を見なければ、産業医は職場に潜んでいる問題点を見つけることが難しいからです。
また、実際の作業現場を確認して職場に対して理解を深めていけば、発見された問題点と健康・安全上の課題を結びつけやすくなり、職場環境の改善がさらに効率的に進むでしょう。管理監督者・衛生管理者と産業医がコミュニケーションを深めておくことも、職場環境改善のために欠かせないことです。
産業医が行う職場巡視の意義と重要性
産業医による職場巡視の重要性は、企業が気づいていない安全・健康上の問題点を発見してもらえることです。問題がないと思っていた作業環境であっても、産業医という専門家の視点から観察すると、思わぬ危険性が見えてくることもあります。
職場巡視でチェックされる項目は、整理整頓から室内の冷暖房環境、室内の明るさ、VDT環境の危険性、衛生管理まで多岐に渡ります。作業環境内に潜んでいる安全・健康上の問題点を見つけるためには、専門家の目で実際に作業環境を観察してもらうことが必要です。
産業医による職場巡視の進め方
それでは、産業医による職場巡視の進め方についてご紹介します。職場の巡視は「PDCA」が基本とされており、「計画(Plan)」「実行(Do)」「評価(Check)」「改善(Action)」の4つのステップによって、次のように進められていきます。
1.職場巡視の計画と準備
職場巡視を行う前に、まずは計画を立て準備を行います。巡視を行う日程や年間計画を決めたら、巡視で重点的に確認するべきテーマを決定します。巡視対象となる作業現場で行われている作業の工程や内容、作業従事者の健康診断結果の確認なども行われるでしょう。事前の計画や準備は、実際の巡視を行うための重要な基盤となる部分です。
2.職場巡視の実施と報告書の作成
実際に職場巡視を実施したら、産業医は確認した結果を報告書としてまとめます。まずは計画段階で決定されたテーマを元に、次のような項目を巡視によって確認していきます。
・整理・整頓・清掃などに問題はないか
・温度計や湿度計が設置されているか
・冷暖房環境に問題がなく事務所衛生基準規則が守られているか
・作業に必要な明るさが保たれているか
・コンピューターを使用する環境に問題はないか
・トイレや休憩室は衛生を保っているか
・AED・消化器の設置状態は万全か
上記のようなポイントを巡視した結果、問題があると思われる点に対しては改善策が、評価できると思われる点に対しては良い点としての評価が報告書にまとめられます。
3.報告書の提出と改善計画の提案
産業医による報告書の作成が終わったら、事業所に対して報告書の提出とともに改善計画の提案が行われます。報告内容は事業所により異なりますが、作業現場において安全・健康に対して問題があると考えられる点や、衛生状態に問題があると考えられる点に対して、実施するべき改善計画が報告されることが多いでしょう。
4.安全衛生委員会での審議と今後の管理計画策定
産業医から受けた報告を元に、安全衛生委員会で審議を行い、今後の管理・改善計画を練っていく段階です。すぐに対応できる問題点であればすぐに解決できるでしょうが、対応をした後も安全・健康上の問題が残ると思われる問題点であれば、その後の安全・衛生を維持するための計画を練って長期的に対応していくことが必要となります。
産業医の職場巡視の頻度について
職場巡視の頻度は、「1か月に1回」もしくは「2か月に1回」です。
職場巡視の基本的な頻度は「1か月に1回」であり、2017年の労働安全衛生規則改正前までは、条件を問わず1か月に1回の巡視が必要とされていました。しかし現在では、次の2つの条件を満たした場合に限り「2か月に1回」でも良いとされています。
2か月に1回の巡視頻度に事業者が同意すること
産業医から「2か月に1回の職場巡視にしたい」との申し出に対し、事業者が同意することが1つ目の条件です。産業医や事業者が独断で巡視頻度を決めることはできず、双方の意見が一致した場合にのみ2か月に1回の巡視が実現します。
さらに、2か月に1回の巡視頻度にするためには、事業者は衛生委員会で審議を行った上で同意をしなければなりません。事業者が同意をした後に、実際に一定期間内で2か月に1回の頻度で職場巡視を行ってみて、問題がないようであればその後も2か月に1回の頻度による巡視が可能となります。2か月に1回の巡視に同意する場合は、衛生委員会の審議や実際の巡視を経て問題がないことを確認するという慎重な姿勢が必要です。
事業者が産業医に毎月の情報提供を行うこと
職場巡視を2か月に1回にする場合は、事業者が産業医に毎月の情報提供を行うことも条件となります。提供される情報とは次のようなものです。
・衛生管理者による1週間に1回の巡視結果報告
・衛生委員会の審議により提供されると決まった情報
・長時間労働を行っている従業員の氏名と超過労働時間
産業医による巡視の頻度を減らした場合、衛生管理者が1週間に1回の巡視を行い、巡視の結果を報告しなければなりません。また、衛生管理委員会の審議により提供するべきだと判断された情報や、労働時間が1か月で100時間を超えている従業員の情報を提供することも必要です。
以上のように職場巡視を2か月に1回にしたい場合は、事業所が作業環境や従業員の状態をよく細かく観察し、情報として医師に提供しなければなりません。
産業医の職場巡視は作業環境改善に欠かせない業務
産業医による職場巡視とは、作業環境を改善していくためには欠かせない業務であると言えます。問題がないと思われていた作業環境でも、専門家の立場から巡視を行うと、思わぬ問題点が見えてくることもあるでしょう。安全・健康上の問題があると思われるポイントを、いち早く解決していけることが巡視を行うことの最大のメリットです。
巡視は1か月に1回、もしくは2か月に1回の頻度で行われますが、行う目的をしっかりと認識して、作られた報告書を活用すれば、安全で健康被害の少ない作業環境を実現させられるでしょう。