産業医による「メンタルチェック」とは?検査内容や注意点を解説

産業医が行う「メンタルチェック」とは、一体どのような内容なのでしょうか。年に1回の実施義務があるとされるストレスのチェック検査のことですが、企業としては、実施する前に検査の内容や検査結果への対応方法などを知っておきたいというケースも多いでしょう。

そこで今回の記事では、産業医によるメンタルチェックの内容やメリット、その後の対応方法などを解説します。

産業医導入後のメンタルチェック(ストレスチェック)の目的と内容

まずは、産業医によって行われる「メンタルチェック(ストレスチェック)」の内容と目的について知っておきましょう。

メンタルチェック(ストレスチェック)を実施する目的

メンタルチェックを実施する目的は次の2つです。

・従業員のストレスをチェックして健全な心の状態を保つこと
・チェック結果を元にして職場改善を行うこと

従業員は自分のストレスの大きさに気づいていないことも少なくありません。産業医が従業員のストレスをチェックして伝えれば、従業員本人が自分のストレスの大きさに気付くきっかけとなります。

また、チェックした結果を分析することで、特定の労働環境においてどれだけのストレスが発生しているのかを知ることができるため、職場改善にも役立てられるでしょう。従業員の心の健康を維持することはもちろん、職場改善のためにもメンタルチェックは重要な存在です。

メンタルチェック(ストレスチェック)の内容とは?

メンタルチェックとは、質問票に記載されたストレスに関する質問に答えていく簡単な内容です。質問の内容は産業医により異なりますが、次の3つのポイントを含む内容が基本とされています。

・仕事のストレス要因
・心と体のストレス反応
・周囲からのサポートと支援

厚生労働省の「ストレスチェック制度 簡単!導入マニュアル」によると、次のような質問が例として提示されており、従業員は「そうだ」「まあそうだ」「ややちがう」「ちがう」の4択で答えられるようになっています。

あなたの仕事についてうかがいます。最もあてはまるものに○をつけてください。
1.非常にたくさんの仕事をしなければならない
2.時間内に仕事が処理しきれない


最近1か月間のあなたの状態についてうかがいます。最もあてはまるものに○をつけてください。
1.活気がわいてくる
2.元気がいっぱいだ

出典:厚生労働省:(PDF)ストレスチェック制度 簡単!導入マニュアル

上記のような質問の回答結果を産業医がチェックし、従業員本人にストレスの度合いを通知した後に、「高ストレス」と判断された従業員に対しては面接指導を行うのがメンタルチェックの内容です。

高ストレス者に対して行われる産業医の面接・指導について

高ストレス者に対して行われる面接指導では、メンタルチェックの結果を元に従業員へ指導を行ったり、相談機関・専門医の紹介が行われたりします。面接指導の内容は従業員の状態により異なり、本人が抱えているストレスに対して適切な対応が取られます。

ただし、面接指導はあくまでも従業員の希望により行われるものです。従業員が面接指導を拒否した場合、無理に受けさせることはできませんが、面接指導が行われれば会社側も従業員に対して適切な対応が取れるようになるでしょう。そのため、面接指導を受けやすい環境を作り出し、高ストレス者に受けてもらえるようにすることも大切です。

産業医によるストレスチェックのメリットや効果

産業医によるメンタルチェックを実施することには、次のようなメリットや効果が期待できます。

従業員の離職率が低下する

ストレスのチェックを行うことで、従業員の離職率が低下するメリットが期待できます。

多くのストレスを抱えたまま働いていると、突然退職を希望されたり、出社を拒否したりする従業員が出てこないとも限りません。しかし、未然に従業員の抱えているストレスを把握できれば、離職する前に対策することも可能です。

メンタルチェックは企業にとって大切な従業員を守り、離職させないようにするために大きな効果を発揮します。

健康経営が可能となる

健康経営が可能となることもメンタルチェックのメリットのひとつです。従業員の健康が守られなければ、企業の経営は成り立ちません。

従業員が心身ともに健康でいれば職場の士気が上がり、業務効率・売上アップなどの恩恵を受けられることから、企業の経営状態も良くなっていく可能性が高いでしょう。従業員のストレスを管理することは、企業の経営においても重要なことです。

長時間労働を見直せる

産業医によるメンタルチェックを行うと、従業員のストレスから長時間労働を見直せるようになります。

最初に解説しましたが、従業員本人が自分のストレスに気づいていないことも少なくありません。しかし、産業医がチェックを行うことで、従業員本人が気づかず蓄積しているストレスも発見できるようになり、長時間労働への対応が可能となるでしょう。

ストレスチェック後の会社対応における注意点

ストレスチェックが行われた後には、企業側は次のようなポイントに注意してください。

勤務地・労働時間の変更や休職などの対応をすること

ストレスチェックの結果に応じて、会社側は勤務地・労働時間の変更、休職などの対応を検討するようにしてください。チェック結果に対して何らかの対応をしなければ、従業員にかかるストレスは変わらず、チェックの意味が薄れます。

特に高ストレス者と判断された従業員に対しては、ストレスが軽減される労働環境の提供が課題となってきます。産業医からの意見を参考にしながら、配置転換や休職などの対応を検討するようにしましょう。

解雇・退職・不当な配置転換を行わないこと

メンタルチェックの結果により、解雇や退職を推奨したり、不当な配置転換を行ったりしないようにすることが大切です。労働安全衛生法第66条に反してしまいます。

産業医の意見を参考にして、配置転換や休職の対応を検討することは必要です。ただし、解雇や退職を迫るなど、従業員にとって不利だと感じられる対応を行うことは避けるようにしてください。

個人情報の流出に注意すること

産業医により行われた面接指導の内容は、流出しないようにしっかりと管理しましょう。面接指導の内容は「健康情報」にあたり、厚生労働省による「雇用管理分野における個人情報保護に関するガイドライン」で管理方法が定められています。

従業員の健康に関する内容は、秘匿性の高い個人情報として位置づけられています。産業医の元で厳密に管理をする、カギつきのロッカーで書類を保管するなど、面接指導の内容が流出しないよう管理を徹底してください。

労働基準監督署に報告書を提出すること

メンタルチェックを行った後は、労働基準監督署に報告書を提出する必要があります。報告書を提出しなかった場合、50万円以下の罰金を支払わなければなりません。

報告書の様式は「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」として厚生労働省により指定されています。厚生労働省の公式サイトからダウンロードし、白色度80%以上の紙に印刷し記入して提出しましょう。

簡単なメンタルチェックは職場環境の改善に効果的

産業医によるメンタルチェックは非常に簡単な検査ですが、職場環境の改善に大きな効果をもたらします。検査結果を元に従業員のストレスを軽減させられるだけでなく、健康経営や長時間労働の見直しにも効果的です。高ストレス者は産業医の面接指導を受けることで、自身の健康に対して適切に対処できるようになるでしょう。

ただし、会社側にはメンタルチェックの結果を元に従業員を不利な立場に置かない姿勢が求められます。また、個人情報の流出や報告書の提出などにも注意し、万全の体制でストレスチェックを行うことが大切です。