早めの受診で肝臓の病気を予防しましょう

7月28日は「日本肝炎デー」、そしてこの日からの1週間は「肝臓週間」となっています。

日本肝臓学会は昨年奈良県で行われた第59回総会で「奈良宣言」を発表しました。
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、肝疾患は自覚症状に乏しく、症状に気づいた時にはかなり進行してしまっていることが多いと言われています。
「奈良宣言」では「肝疾患の早期発見・早期治療」につなげることを目的として、健診等での肝機能の検査値が「ALT>30」の場合はかかりつけ医を受診するよう提言がなされました。

肝臓とは

肝臓は右上腹部に位置する1.2~1.5kg程の重さがある体の中でも最大の臓器です。

肝臓の主な役割

アルコールや薬、老廃物などの有害物質の解毒・分解、栄養素の代謝、食べ物の消化に必要な胆汁の合成・分泌

肝臓の病気

B型やC型といった肝炎ウイルスによる「ウイルス性の肝疾患」や「アルコール性肝疾患」、「非アルコール性の肝疾患」、「免疫による肝疾患」等

いずれも症状が進むと肝硬変に至る。一旦肝硬変の状態になってしまうと回復するのは難しい。

→ 最終的に命に関わる「肝がん」や「肝不全」の状態へ

「奈良宣言2023」とは

一般的な健康診断の血液検査でも肝機能検査として測定されている「ALT」値を指標として、健康診断等で「ALT>30」という検査結果が認められた場合、かかりつけ医等を受診するよう呼びかけるものです。

そしてかかりつけ医が必要と判断した場合には、消化器内科等の専門診療科でさらに詳しい検査を受ける流れとなっていて、かかりつけ医と専門医が連携して「肝疾患の早期発見・早期治療」に繋げていくことを目的としています。

今回の宣言が出されたのは、以下の様な背景があります。

  • 近年、治療の劇的な進歩により、頻度の高かったウイルス性肝炎であるB型やC型肝炎による死亡者は減少傾向にはあるものの、現在でも肝硬変や肝がんに進行してから初めて診断されるケースがあること。
  • 生活習慣病を基盤とする脂肪肝(アルコール性肝疾患・非アルコール性脂肪肝疾患)を基礎疾患とする肝疾患が年々増加していること。

【肝機能を調べる代表的な項目AST・ALT】 

肝臓の機能を調べるための代表的な検査項目にはASTとALTがあり、どちらも肝細胞で作られる酵素です。

肝細胞が傷つくと、AST・ALTは細胞から漏れ出て血液中の数値が上昇しますが、ASTは肝細胞と心筋、骨格筋に多く含まれる酵素であるのに対し、ALTは肝臓以外の臓器にはあまり含まれない酵素であることから、ALTの高さは肝障害をより反映します。
※ASTはGOT、ALTはGPTと表記されることもあります。

なぜ早期に受診することが重要なのか?

肝臓は…

  • 神経が通っていないため、肝障害が起こっても痛みは生じない。
  • 再生能力が高く、正常な肝臓であれば、その7割~8割程度を切り取っても再生できるほど再生能力が高いとも言われている。

そのため…

病気がかなり進行するまで自覚症状が出ないことが多い。

しかし…

肝細胞が8割以上破壊されると肝臓の機能は失われ、倦怠感や疲労感、食欲不振などの自覚症状が出現し、肝機能の回復も難しくなる。

肝障害は急性肝炎の様に症状が一気に現れるものもありますが、慢性化したウイルス性肝炎や、生活習慣に起因するアルコール性肝疾患・非アルコール性脂肪肝などでは、肝細胞が長期にわたって炎症と修復を繰り返し、自覚症状がないまま、ゆっくりと肝細胞の線維化が進んでいきます。

肝臓の線維化は早い段階で発見し対応することで改善することもありますが、長期間にわたって再生と破壊を繰り返していくと、線維化が広範囲に広がっていき回復ができなくなります。
このため、肝障害の可能性がある「ALT>30」の段階で、一度かかりつけ医を受診して肝臓の状態を確認し、必要に応じて専門医での詳しい検査を受けるといった対応が重要です。

「ALT>30」の基準に該当したら受診しましょう

「ALT>30」は健康な成人でも15%は該当すると言われ、「ALT>30」だからと言ってすぐに治療が必要なわけではありません。
しかし実際に「ALT>30」の症例では、肝生検を行うとほとんどの場合に肝組織に炎症細胞浸潤が認められるとされています。

基準値としては厳しめと思われるかもしれませんが、この基準に該当した場合は、念のためかかりつけ医を受診し、しっかりと肝臓の状態をチェックするようにしましょう。かかりつけ医がない場合は、お近くの内科(ある場合は消化器内科)を受診ください。

※かかりつけ医での診察で問題なかった場合でも、飲酒習慣や肥満、体重増加傾向にある場合等では将来的な肝疾患の可能性が考えられますので、今後の経過観察の必要性や生活習慣での注意点について医師からアドバイスをいただくと良いでしょう。

株式会社メディエイト 保健師 小河原 明子