水痘・帯状疱疹の動向とワクチン

水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus, 以下VZV)は, ヘルペスウイルス科αヘルペスウイルス亜科に属し, 初感染時に水痘を引き起こす。初感染後2週間程度(10~21日)の潜伏期間を経て, 紅斑状丘疹が出現しその後水疱となる。発熱を伴うことも多く, 全身に紅斑, 丘疹, 水疱, 痂皮それぞれの段階の皮膚病変が混在するのが特徴である。水痘は小児期に好発する予後良好な発熱発疹性疾患である。空気, 飛沫, 接触感染の経路で人から人に伝搬し, 感染力が極めて強い。皮膚の二次性細菌感染, 肺炎, 髄膜炎, 脳炎, 小脳失調などが合併することがある。水痘は学校保健安全法による第2種学校感染症で, すべての発疹が痂皮化するまで出席停止である。成人になってから水痘に罹患すると重症になることが多い。また, 免疫抑制患者では水痘は極めて重症となり生命に関わることもある。

VZVは感染後終生にわたり, 主として脊髄後根神経節(三叉神経節を含む知覚神経節)に潜伏感染し, 加齢や免疫能低下などにより再活性化する。再活性化したVZVは神経節支配領域の皮膚上皮細胞に到達し, 帯状疱疹を発症させる。帯状疱疹患者の水疱液や気道分泌物(唾液を含む)に含まれるVZVには感染性がある。帯状疱疹の合併症である帯状疱疹後神経痛 (postherpetic neuralgia, 以下PHN) は, 皮疹消失後3カ月以上疼痛が持続する病態であり, 加齢は重要なリスク因子である。

感染症発生動向調査:水痘は感染症法に基づく5類感染症定点把握疾患で, 全国約3,000カ所の小児科定点医療機関から患者数が毎週報告されている(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-19.html)。

1999年に感染症法が施行されて以降, 小児科定点から報告される水痘患者数は年間約20万人で, 年間受診患者数は約100万人と推定されていた。2012年には小児科定点からの報告数は20万人を下回り, 2014年にはさらに減少して約15万人となった。2014年10月に, 水痘ワクチンが小児の定期接種に導入されたことで, 報告された患者数はさらに大きく減少した(図1)。2014年までは0~4歳の乳幼児の割合が水痘患者全体の7~8割を占めていたが, 2015年以降その割合は減少し, 2017年は約4割まで低下した。5~14歳の水痘患者が報告数全体に占める割合は増加したものの, 報告数は減少した(図2)。

水痘ワクチン定期接種化に先立ち2014年第38週(9月15日~21日)から, 24時間以上の入院を要した水痘患者(他疾患で入院中に発症し, その後24時間以上入院した症例も含む)は全数届出対象となった(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-140912-2.html)。水痘ワクチン定期接種化後, 5歳未満の患者の割合が34%から11%に減少した。2017年には入院した水痘患者の70%が成人であった(本号3ページ)。

水痘ワクチン定期接種化:水痘ワクチン(Oka株)は1974年に日本で開発された弱毒生ワクチンで, 1987年から任意接種として接種が始まり, 2014年10月から定期接種 (A類疾患) 対象となった。ワクチン接種後の水痘罹患(breakthrough varicella, 以下BV)は一般に軽症である。BVを発症するリスクを低減させるため, 日本では生後12~36か月に至るまでの児を対象に3カ月以上(標準的には6~12カ月)の間隔をあけて水痘ワクチンを2回接種することが勧奨されている。愛知県で実施された調査では, ワクチン2回接種の高い有効性が確認されている(本号4ページ)。米国では1996年から定期接種化され, 2006年から2回接種となった。

抗体保有状況:2017年度感染症流行予測調査によると, 年齢別水痘抗体保有率は, 1歳, 2歳, 3~4歳で, それぞれ32.1%, 46.8%, 37.3%であった(図3)。定期接種化前と比較すると1歳児の抗体保有率は上昇しているものの, 依然として小児では50%を下回っていた。20歳以上の成人の抗体保有率は95.2%であり, 成人の多くはすでに免疫を有していることが確認された(本号5ページ)。ただし, 成人水痘は重症化することが多く, 接種歴, 罹患歴のない成人にはワクチン接種が推奨される(本号7ページ)。

帯状疱疹予防ワクチン:帯状疱疹予防ワクチンは, 帯状疱疹の発症率を低減させ, 重症化を予防するとともに, 間接的にPHNの発症リスクを低減させる。

高齢者・免疫抑制剤投与を受けている患者・臓器移植患者等では潜伏感染していたVZVが再活性化し, 帯状疱疹を発症するリスクが高い(本号8ページ)。兵庫県, 宮崎県内で実施された帯状疱疹の疫学調査では(本号10&11ページ), 近年の小児における水痘ワクチンの定期接種化により, 国民はVZVに曝露される機会が減少し, 自然感染によるブースター効果が減弱することが指摘されている。また, 高齢化が進行していることから, 帯状疱疹患者が増加すると指摘されている。

日本では2016年に乾燥弱毒生水痘ワクチンの効能・効果に, 「50歳以上の者に対する帯状疱疹の予防」が追加された。これにより帯状疱疹を予防する目的で乾燥弱毒生水痘ワクチンを受けることができるようになった(本号13ページ)。しかし, 妊婦や明らかに免疫機能に異常のある患者および免疫抑制をきたす治療を受けている者は接種を受けることができない(接種不適当者)。

2017年10月に米国, カナダで, 2018年3月に欧州, 日本で承認された乾燥組換え帯状疱疹ワクチン(チャイニーズハムスター卵巣細胞由来)は, VZVの遺伝子組換え糖タンパク質gEにアジュバントAS01Bが加えられたサブユニットワクチンである(本号14ページ)。帯状疱疹発症阻止効果は大規模臨床試験で確認されている。水痘の予防接種に用いることは認められていない。通常, 50歳以上の成人に2カ月間隔で2回, 筋肉内接種するが, ワクチンによる重篤な有害事象や自己免疫性疾患の増加などは報告されていない。

抗ウイルス薬:水痘・帯状疱疹の治療薬として, 核酸アナログであるアシクロビル, バラシクロビル, およびファムシクロビルが使用されている。また, 最近, ヘリカーゼ・プライマーゼ阻害薬であるアメナメビルが帯状疱疹に対する治療薬として製造販売承認された(本号16ページ)。

検査診断:通常, 水痘や帯状疱疹は臨床的に診断される。しかし, BVあるいは発疹の性状が典型的でない場合には, ウイルス学的検査が診断に必要である。水疱内容液, 脳脊髄液(中枢神経感染症が疑われる場合), 末梢血単核球から, PCR法によりVZV DNAを検出する。また, VZV抗原を検出する方法もある。水疱内容液を用いたウイルス分離も有用な検査法であるが, 検出に時間がかかるなどの制約がある。血清学的診断にはEIA法によるVZV IgM, IgG抗体検査が用いられることがある。検査手法の詳細は国立感染症研究所病原体検出マニュアル(https://www.niid.go.jp/niid/ja/labo-manual.html#class5) を参照されたい。

まとめ:水痘ワクチンの定期接種化により, 患者報告数の著明な減少が認められている。一方で, 近年の高齢化の進行から帯状疱疹患者の増加が示唆されている。今後, 小児における水痘ワクチンの高い定期接種率を維持することが必要であり, また, 帯状疱疹ワクチンによる予防についても検討が必要である。

(国立科学研究所HPより引用)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/id/787-disease-based/sa/varicella/idsc/iasr-topic/8223-462t.html
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