名義貸し産業医は違法!リスクを知ってトラブルを防ごう

知らず知らずのうちに名義貸し産業医と契約していませんか?産業医の選任は大規模な企業にとっては負担になりやすく、なかには安易に産業医を選任してしまうケースもあります。名義貸し産業医は違法ですので、大きなトラブルになる前に「名義貸し」についてしっかり学んでおきましょう。ここでは名義貸し産業医のリスクや対応について解説しています。

「産業医の名義貸し状態になっていないか確認」

産業医を選任するときに気をつけなければいけないのが「名義貸し」です。選任に手を抜いてしまうと大変なことになってしまいます。危険を回避するためにも産業医を選任するときは名義貸し状態になっていないか確認しましょう。

「そもそも名義貸しとは?」

名義貸しとは、文字通り名義を他人に貸す行為のことを言います。産業医に限らずさまざまなシーンで行われていますが、契約当事者以外が依頼されて名義を他者に貸すわけですから正しい行為とは言えません。当然違法になりますが、産業医の場合の名義貸しは“名前だけの産業医”を意味し、通常の名義貸しとは少し意味合いが異なります。名前だけの産業医なので面談も職場巡視もせず、十分な業務を行ってくれません。

忙しい中で産業医を選任するのは困難です。先ほども述べたように名義貸しは違法行為ですから、うっかり名義貸し状態になっていないかしっかり確認し、名前だけで選任しないように気をつけましょう。

「名義貸しを確認する方法」

名義貸しになっていないか確認するには、じっくり入念に選任することです。産業医は規模と従業員の人数が多いところに選任義務が与えられます。そのためどうしても忙しくて慌てて選任してしまいがちです。これが大きな落とし穴になりやすいので、きちんとした産業医を選任するためには事前に産業医設置要件を把握しておくようにすると良いでしょう。

選任した産業医が名義貸しになっていないか判断するのは比較的簡単です。産業医としての業務を十分に行っていない場合は高確率で名義貸し状態だと判断して良いでしょう。健康診断結果報告書にサイン捺印しかしていない場合も気をつけてください。

「産業医の名義貸しにより生じるリスク」

名義貸しは違法なので、当然生じるリスクは大きいでしょう。ほとんどのケースがコンプライアンス規定に違反しているので産業医を選任するときは十分注意しなければいけません。ただなかにはそういったリスクがあることを知らない産業医もいますので、トラブルにならないためにも契約前にしっかり確認しておきましょう。ここでは名義貸しによって生じるリスクについて解説します。

「罰金が発生する」

バレなければ大丈夫と思っている方もいるかもしれませんが、名義貸しをしている産業医は労働安全衛生法の罰則を受けることになります。罰金は50万円以下なのでそれほど大きく感じませんが、実態をすべて調査されるため、今後の仕事にも大きく影響してしまうでしょう。

また、調査したときに名義貸し以外の問題が発覚した場合は、別途金額を支払うことになります。その金額は50万円以上になる可能性も高く、安易に考えていると大きな損失になるでしょう。

「ブラック企業認定される」

違法行為をしているわけですから、当然名義貸しをしている企業は「ブラック企業」認定されます。労働基準法に引っかかった企業は公表され厚生労働省のホームページで誰でも見ることができるため、多くの人に知れ渡ることになります。

「名義貸しは必ず発覚する」

名義貸しは黙っていればバレないと思っている方もいるかもしれません。違法行為は必ず発覚します。産業医の場合は調査が入りますので、名義貸しをしていることはバレてしまうのです。ここではどのような調査で発覚するのが解説します。

1.定期監督
労基署の立ち入りによって主に3つの方法で調査されます。まず「定期監督」です。一般的な調査方法でランダムに企業が選ばれます。事前に日程などの連絡が入るので突然調査される心配はありませんが、調査をすればすぐに名義貸しをしているかわかってしまいます。

2.申告監督
文字通り内部告発があった場合に調査される方法です。証拠隠滅をされないために突然調査されることがほとんどですが、「定期調査」として立ち入るケースもあります。また内部告発があったので、当然名義貸しをしている産業医が働いている可能性は高いでしょう。

3.重点監督
2013年9月に実施が開始された調査で、正式名称は「過重労働重点監督」。長時間の過重労働を行っている企業に対し調査されます。産業医がいる企業では過重労働のバランスが整っているはずですから、そういった問題があるということは名義貸し産業医の可能性が高いでしょう。

「企業と産業医が取るべき適切な対応」

安心して産業医を選任するためにも正しい判断と対応を行う必要があります。産業医の選任にはいくつかの要件があり、それに適した者が選任されます。ここでは企業が正しく産業医を選任するための対応法について解説します。うっかり違法にならないためにも契約する前にしっかり確認しておきましょう。

「産業医設置要件を把握」

産業医には嘱託産業医と専属産業医の2つに分類されます。それぞれの選任要件を確認しておくことで安心安全に産業医を選任することができるでしょう。

・嘱託産業医
月1回~数回企業に訪問し面談や診断などを行います。普段は医師として働いていることが多く、従業員50人以上999人以下の企業が選任できます。業務委託契約なので決まった時間内で対応し残業もありません。ただし従業員の500人以上が有害業務に携わっている企業の場合は専属産業医を選任することになります。あくまで少人数の企業に対応されますが、状況によって変わってくるでしょう。

・専属産業医
企業に勤務している産業医になります。週3日以上1日3時間勤務がほとんどで、普段から企業で働いているので従業員との意思疎通も取りやすいでしょう。ただし専属産業医は従業員の人数が1000人以上であることが条件になるため規模の小さい企業では選任できません。また従業員人数が3000人以上の場合は2名の専属産業医が義務づけられています。それ以外は基本的に1名が選任されます。

「質の高い産業医の特徴を知る」

質の高い産業医がどんなものなのか知っておくことで名義貸しといった違法を行う産業医を選任してしまう恐れはありません。ポイントは「従業員目線で面談できる」「産業医としての役割を十分理解している」という点でしょう。名義貸しという違法についてもきちんと理解している産業医も安全でしょう。

たとえば、従業員に寄り添った対応や安心感を与える対応などが挙げられます。近年はメンタルヘルス問題が増えていますから、従業員の精神状態を十分に理解して対応できる産業医は非常に質が高いと言えます。また産業医として常にスキルアップしようとする姿勢も大切です。

産業医としての役割は、業務内容をしっかり理解していること。名義貸し産業医の中にはアルバイト感覚でとらえている方も少なくありません。従業員のメンタルや健康状態を把握し正しく対応するためには、安易な気持ちで産業医をしている方は、決して質が良いとは言えないでしょう。

「産業医の選任は入念に」

ひと口に産業医と言ってもさまざまです。医師には当たりはずれがあると言いますが、それは産業医も同じです。質の高い産業医と契約するためにも表面的なものだけにとらわれず、細部までしっかり調査してから自社に合った産業医を選任しましょう。またもし名義貸し産業医が発覚した場合はすぐに対応するようにしてください。