長時間労働の現状と企業に求められる対策
1.はじめに
近年、わが国において過労死等が大きな社会問題となっている。仕事による過労から命を落としたり、メンタルヘルス不調となったり、健康を損なったりすることは、本人はもとより、その家族や友人にとって計り知れない苦痛であるとともに、社会にとっても大きな損失である。
こうした事態を二度と生まないようにするため、「過労死等防止対策推進法」が平成26年11月に施行された。同法に基づき、平成27年7月に「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(以下「大綱」という。)が閣議決定された。
また、政府は毎年、わが国における過労死等の概要及び過労死等の防止のために講じた施策の状況に関して「過労死等防止対策白書」(以下「白書」という。)を公表している。本稿では、大綱及び平成29年版の白書を中心に、わが国の長時間労働の現状と企業に求められる対策について紹介する。
労働時間等の現状
総務省「労働力調査」で雇用者(非農林業)の月末1週間の就業時間別の雇用者の割合の推移をみると、1週間の就業時間が60時間以上である者の割合は、最近では平成15、16年の12.2%をピークとして概おおむね緩やかに減少しているものの、平成29年は前年比約3万人増加し、7.7%の432万人となっている。
次に、厚生労働省「就労条件総合調査」から、年次有給休暇の状況をみると、付与日数は長期的に微増であるものの、取得日数は、平成10年代後半まで微減傾向が続き、平成20年代に入って増減しながらも微増の傾向を示している。また、取得率は、平成12年以降5割を下回る水準で推移している。
過労死等に係る労災補償の状況
業務における過重な負荷により脳血管疾患又は虚血性心疾患等(脳・心臓疾患)を発症したとする労災補償の支給決定 (認定)件数は、平成14年度以降、200件台後半~ 300件台で推移している。また、業務における強い心理的負荷により精神障害を発病したとする労災補償の支給決定(認定)件数は、平成24年度以降は400件台で推移している。
2.メンタルヘルス対策の概要
以上のような過労死等の状況を改善するため、大綱では、国が取り組む重点対策として、調査研究や相談体制の整備、監督指導の強化等とともにメンタルヘルスに関する周知・啓発の実施が定められた。
具体的には、職場におけるメンタルヘルス対策を推進するため、平成27年12月1日に施行された「ストレスチェック制度」の普及・指導徹底を図るとされ、また、産業医等の選任義務のない規模の事業場に対しては、産業保健総合支援センターの地域窓口(地域産業保健センター)を活用した体制整備を図ることとされた。
ストレスチェック制度は、労働者の仕事によるストレスの程度を把握し、その結果に応じて労働者に対する医師の面接指導等の対応を早期に行うことで、メンタルヘルス不調になることを予防することが目的である。
また、個人のストレスチェック結果を集団ごとに集計することで、職場単位のストレスの状況とその要因を把握・分析し、職場環境の改善を進めることにより、職場におけるストレスの軽減を図ることができる。
厚生労働省では、ストレスチェック制度の適切な運用のため、人事労務担当者や産業保健スタッフ向けに、より具体的な運用方法等を解説したマニュアルを作成し、周知している。
産業保健スタッフに対する研修
産業保健スタッフは事業者や労働者からメンタルヘルス不調やその対策、過重労働による健康障害防止対策などについて直接相談を受けるため、産業保健に関する専門的な知識が必要であることから、常に最新の知識・情報やノウハウを習得するための研修が必要となってくる。
このため、産業保健総合支援センターにおいて、産業医、保健師、看護師、衛生管理者といった産業保健スタッフに対して、メンタルヘルス対策や過重労働による健康障害防止対策等の産業保健に関する専門的な研修を平成29年度は約4,500回実施している。
3.おわりに
これまで過労死等の防止のための取組を進めているものの、依然として働き過ぎによって貴い命や心身の健康が損なわれるという、痛ましい事案が後を絶たない。
こうした事態を二度と生まないよう、厚生労働省では「過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会」を実現するという使命感をもって、引き続き、過労死等防止対策に全力を挙げて取り組んでいく。
厚生労働省 労働基準局 総務課 過労死等防止対策推進室
「わが国の長時間労働の現状と企業に求められる対策」より引用
https://www.johas.go.jp/Portals/0/data0/sanpo/sanpo21/sarchpdf/93_20-21.pdf
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